どうぶつずかんにはのってない ふしぎなふしぎないきもの

「どうしてこの世界にはポケモンがいないんだ!」

2019年に映画化された『名探偵ピカチュウ』の感想をネットで漁ると、上の言葉を繰り返し見ることができる。

私はポケモンが好きだ。『名探偵ピカチュウ』も当然見た。もしこの世界にポケモンがいたら、何をしようか。どのポケモンと、どう触れ合おうか。想像の世界に浸るのは、楽しい。

人類が思い描いた幻想の世界で最も普及したものが、神話やおとぎ話ではないだろうか。ギリシャ神話や北欧神話を見れば、実に多種多様な動物・生物が登場する。それらは人々の助けになったり、また反対に災いとなったりした。

もし彼らのような生物が実際に存在するとしたなら。

その問いに正面から大まじめに取り組んだ本が『ドラゴンは爬虫類~骨格と進化から読みとく伝説動物の図鑑』(川崎悟司著)だ。もし想像上の生物が、この世界に存在しうるとしたら、それらは一体何の仲間なのか。地球上に生息しているどの生物の親戚なのか。どうやって生態系を築き上げてきたのか。それを考察する本である。

この本で扱っているのは「そんな生物、本当に存在しうるのか」ではなく「いたとしたらどう生きているか」だ。神話生物には火を吐くもの、巨躯で空を飛ぶもの、ほかの生物を合体したような姿をしているものと、多種多様だ。本書ではそんな生物たちが「いるかいないか」という問いから想像の羽を広げて、どんな生活をしているかを考えている。実際の生物を例にとりながら考察されているのが、実に興味深い。

例えば、表題ともなっているドラゴンだ。西洋のドラゴンは、一般に前足・後ろ足のほかに翼が生えている。現実に生態系を支配している脊椎動物には、前足(ホモ・サピエンスにとっては手だ)と後ろ足が一対ずつしかない。翼をもつ鳥やコウモリも、前足が変化たものを使用している。四つの足とは別に独立した翼をもつ生物は、存在しないように思える。

だが、本書によれば存在するらしい。その名をトビトカゲという。くしくも爬虫類だ。

トビトカゲ属はどのようにして翼を手に入れたか。骨格を見ると、ろっ骨を変形させているようだ。たいていの脊椎動物は、内臓を守るために胸から腹にかけて包み込むようにろっ骨がある。トビトカゲ属はそのろっ骨を横一直線に伸ばし、翼としているようだ。ただしろっ骨なので、手足のように可動域が広くない。そのため、飛ぶにしても滑空という形だ。

それでは、翼をはためかせて飛ぶドラゴンは、やはり存在しえないのだろうか。

しかし、本書ではその可能性も考察している。魚類の中に肉鰭類というグループがある。魚類が陸に上がり、やがて両生類や爬虫類へと進化をすることになるが、祖先は肉鰭類だ。その肉鰭類には、前足、後ろ足の前身となった胸ビレがある。しかしその後ろには、さらにもう一つ胸ビレが存在した。

このヒレは進化の過程で必要がなくなり、脱落していった。もしこのヒレが脱落せずに、もう一対の足となれば、6足の生物が生まれることになる。翼をもつドラゴンも生まれるかもしれない。

読者諸兄は、この進化をあり得ないと思うだろうか。

先日、名古屋に行く用事があったので、ついでに名古屋港水族館に立ち寄った。水族館にはイルカの骨格模型がつるされていた。模型の尾のほうに目をあると、小さくはあったが骨盤を発見した。

今となってはわかっていることだが、イルカは哺乳類だ。しかし歴史を見ると、意外とつい最近まで魚類だと思われていたようだ。もし知識がなかったら、私もそう思うだろう。魚類と同じような尾ひれを持っているし、後ろ足もないように見える。そして何より、海の中で生活している。

空想の生物が存在しないと思うのは、その性質が現実には突拍子もないように思えるからだ。

しかし、ドキュメンタリーなどで見る動物たちの生態は、私たちから見ても驚きに満ちていることもある。見方、考え方が違うだけで、現実のほうが突拍子もないことをしているのではないか。そう思えてならない。